手袋

秋口になって、通勤電車の中吊り広告に冬物が並ぶようになった。今年は、ファーが流行りなのだとか。

そういえば、あれはどこへやってしまったのか。母のお古だったか、親戚から譲られたものだったのか定かではないけれど、小さい頃「おでかけ」の時だけに着けることを許してもらえた、白い手袋があった。

ふわふわとした生地の中に、ほんの少し硬い毛が混じった手袋。手首の部分には小さな赤いリボンが縫い付けてあった。

その頃日常的に着けていた手袋は硬くて赤い毛糸でできたミトン型のものだったから、この手袋はまるで「お嬢様」のためのもののように見えた。


「おでかけ」になれば、綺麗な洋服を着せてもらえて、美味しいお昼ご飯と、運がよければ家では食べられないようなおやつを食べさせてもらえるかもしれない。

どんな季節でも「おでかけ」は嬉しかったけれど、冬の寒い時期にだけ出してもらえる白い手袋は特別だった。


どこかでなくしてしまったのか、それとも私が成長して大きさが合わなくなってしまったのか、何時の間にかあの手袋は「おでかけ」に用意されなくなった。むしろ、あまり「おでかけ」自体をしなくなったということの方が大きいような気もするが。


まぁ、物持ちの良い母のことだから、私に娘ができた時あの手袋が箪笥から出てくるのかもしれない。